オンライン英会話を止め、シャドーイングを始める

 昨年11月上旬ごろから本年02月上旬までの3ヶ月、某オンライン英会話の講座を受講してみた。
 カリキュラムやスケジューリングの制度については申し分なく、合理的な制度だと今でも評価しているが、結果的には今の自分の状況には則さないプログラムだった。*1
 しかしリスニング/スピーキングの実力を上げる必要はある……さてどうしようか、というところに、英語学習に取り組む友人夫婦の誘いがあった。シャドーイング教本と、学習管理アプリであるStudyPlus(スタディプラス)である。*2自分はそれに、音源速度調整アプリ『ハヤえもん』と、数年間格闘してはいまいちできた気になれなかった英会話教材『DIALOGUE 1800』(2005年第2版)を組み合わせて、訓練を始めた。

ハヤえもん - 音楽プレーヤー

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  • Ryota Yamauchi
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*3

 シャドーイングや朗読に関する訓練は、これまでにも何度か試みては失敗していた。シャドーイングはとても「高度」なもので、意味を完全に理解してからでないとやってはならない、上級者の最終的な「仕上げ」のようなものだとイメージしていたからだ。
 ところがそのイメージは、シャドーイングの効能を学び直した今から振り返ると、大きな誤解を含んでいたようだった。シャドーイングはむしろ、理解したい原文の意味を理解する“手前”の部分でこそ時間を掛けて取り組んだほうが旨味のある訓練手法だった。そのことを、門田2018の本は明らかにしている。

 その本自体の良さについては、すでに以下のような記事がある*4。「意味の手前」について言及しているという点でも優れた紹介だ。

thinkeroid.hateblo.jp

上記記事に自分が付け加えることは少ないが、自分自身でやる際に元の推奨手順をさらに少しいじってある。以下に、先週(2月初旬)から取り組んでいるやり方をフローチャートに落とし込んだものを示す。

https://sites.google.com/site/falletinsouls/blog_materials/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%88%E3%82%99%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%82%99%E3%83%95%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%8820190211.001.jpeg?attredirects=0&d=1

もとの本で紹介されている手順も(門田2018: 156)から引用しておこう。

f:id:gginc:20190211190935j:plain
門田2018:156

自分が実践していることと、門田2018の提示する手順との違いは、以下の通り:

  1. 手順書それ自体のくだりでは明示されていないが、STEP 5の「プロソディ・シャドーイング」を含め、シャドーイングの5回を超えた実施は、訓練効果に有意な差が見られないという記述がある。その指摘を受けて、シャドーイング1周回あたりを5セットまでと考え、それ以上の試行を止めるように決めている。
  2. 「音韻の理解が意味内容の理解を促進する」という門田2018の基本主張に同意した上で、そこから逆に「いつまでも音韻理解ができていない(STEP 5が仕上がらない)ところは、意味内容的にも自分にとって複雑な{語,句,節,文}を含むところである可能性が高い」という仮説を採用して、STEP 5以降で煮詰まった時に必ずSTEP 4まで戻るようにフローを組んだこと。*5
  3. シャドーイングのリピーティングより優れているところは、ネイティヴの流暢さ・速度(fluency)やピッチの高さに近づけることである。リピーティングばかりやっていると速度が相対的に落ちる」(門田2018: 110-121)という門田の論証を受け入れ、リピーティングの時間をそこまで多くは掛けないこと。
  4. シャドーイングと同じくらい、朗読演習の効果は高い」という門田の説を受け入れた上で、一文ごとの苦手な部分をSTEP 3: パラレルリーディング*6の応用で「薄眼で文を追いながらわからないところだけ見る朗読」*7を、STEP 5の訓練が終わった後に繰り返し試みること。これを実質的なSTEP 7(リピーティング)の代用とする。これを採用することで、その都度の一時停止の作業をシャドーイング訓練パッケージから完全に放棄することができるようになる。*8

 こうすることで、これまで暗記がおぼつかなかった教材が、急に全文ほぼ暗誦できるような対象として立ち上がってきた。実際、§001, §002については、モデル音声ほどではないものの、すでにほぼ完璧に暗誦できるようになっている。もともと語彙修得や漫然とした朗読しかできていなかったことはさておいて、この教材が手元に10年ほどあって、このレベルの理解に達したのはほぼ初めてのことだ。

 なにしろ、STEP 5 で音韻を覚えた後の感覚が非常に好ましい。自分は教材をPDF化したデータを持っているのでスマートフォンでも『DIALOGUE 1800』が読めるのだが、あるきながらふとSTEP 8のレシテーション演習を始めて、その失敗した部分を手元のスマホで表示して眺め返したりすることもできるのだ。*9 つまり、机なしで外的/内的リハーサルを繰り返せるのが、一定の訓練を経たあとのシャドーイング演習パッケージの強みである、ということだ。机に向かう時間が取れずとも語学に接する時間が増やせる手段としても、この門田本のやり方は部分的に推奨できる。

とにかく何でもよいので、最初の語学教材1セクションぶんをSTEP 5のプロソディ・シャドーイングの段までやっつけてみてほしい。その後には寝起きからおやすみの時間まで、無理のない語学演習時間を捻出できる世界が視えるようになっているはずだ。

 やる気の問題もあるのかもしれないし、事前にオンライン英会話教室に入ってみるなど、資金投下も含めて多少の努力をしたのも多少は影響しているかもしれない。しかし根本的には、このやり方こそが効果的だったのではないかという気がしてならない。

*1: (1) 自室に固定の学習ブースがないこと。その都度ノートPCを開いて、イヤホンを挿して、Skypeその他の通信システムを準備して、教材を開いて……ということを毎回しなくてはならなかった。これは相手のサービスではなく自分の部屋づくりのコンセプトに則していないということだった。(2) 25分間程度のために毎日事前に登録する手間が、学習本番よりもしんどいこと。(3) 文脈を理解する講師ばかりでないこと。そのために毎回自己紹介を強いられること(それを練習しようというモチベーションも必要だが、いつまでも慣れなかった)。(4) オンラインのみで、何の話に切り替えたのかを即座に判定することが個人的に極めて難しかったこと。キャラクターの話を尋ねられた直後に自分の話を尋ねられるのは正直言って苦痛だった。キャラクターの話だけ、自分の話だけ、どちらかにしてほしかった。(5) 今必要なコンテンツに必要な学習度と自分の現在の発話能力の乖離のために仕方ないことだったが、やっていることが海外在住者同士のお見合いのような教材だったこと。トラベル英会話に順応するならそれでいいが、今すぐに必要な処方ではないように思われた。(6) ヒアリング能力が育たないと、対処的に何やっても無駄ということを痛感させられたこと。……以上のような発見が極めて短期間でできたため、月謝を支払った甲斐はあった。安いし。だが、3ヶ月以上支払う気にはなれなかった。

*2:時系列がややこしいのだが、敢えてざっくりと整理すると、スタディプラスの紹介が先、シャドーイング演習の効果についての紹介がその暫く後となる。

*3:最新版は三訂版なので、そちらを利用するのがよい。多少時代に合わせてアップデートされているが、内容に大きく変わりはない。[asin:4010527013:detail]

*4:この記事は、上記に示した本の推薦者と同一人物が書いたもの

*5:一読では気づかなかったレベルでさり気なく高度な文法語法が使われていることを再発見することが多々あったことから、このようにした。門田さんのような認知科学系の言語学・教育学者には、このあたりの「実際にとっさに言えないものについての意味理解の程度」の研究成果についても、ぜひ紹介してほしいと思っている。

*6:パラレルリーディングは門田2012(後述)の頃から提唱されている訓練法で、朗読演習法の初期条件をシャドーイングの演習と近づけるために定義された手法。モデル音声が流れている状態で、テキストの文字列を追いながらシャドーイングする方法を門田はパラレルリーディングと呼んでいる。通常のシャドーイングで躓いたときは、いつでもパラレルリーディングまで戻れるように手順が組まれている。門田の2012年の書籍は以下を参照:[asin:4864540179:detail]

*7:この朗読演習方法を、暫定的に「薄眼朗読」と間抜けな呼び方で呼んでいる。

*8:一時停止を何度もやることの面倒臭さが、朗読やシャドーイングの訓練の実行を妨げていた要因の一つだと自分は考えている。少なくとも、個人レベルでは!

*9:歩きスマホは推奨しません。道路脇の安全なところに避難して行いましょう。