語句から文へ:リスト型思考とセンテンス型思考の架橋

▼この文章はなに?

 この文章は、筆者自身が文筆スランプに陥っていた時に、なんとなく考えていたリハビリテーションの作法をメモしたものです。併せて、便宜的に「こうじゃないか」と仮説してみた、いくつかの理屈も添えています。
 この文章に書かれたようなプロセスを経ることで、近頃の自分は毎回、作文らしきものをかろうじて仕上げてゆけているのではないか。そう自認しています。
 本記事は、主にアナログ筆記による実施を念頭に置いています。ですが、各自の環境が十分整っているのであれば、PCやタブレット等のデジタルメモでも、同様の作業はできると考えています。適宜、ご自身に合ったやり方に読み替えて、試してみてください。

▼i. リスト型だけでは「文」にならない

 考え事を、主述のきちんとした文(sentences)で書くか、文未満の語句(words & phrases)でサッと書かれた語句の箇条書き(lists)で書くか、ということについて考えている。*1
 以前は、なんでもセンテンスで書いていた。センテンス型だけでものごとを書きまくると、他人にはとても読みづらいものが出来上がる。さしあたって自分の思考を煮詰めてゆくのには向いているものの、他人に見せるためのプレゼン用の出力に向くやり方ではない。
 けれど、だからといってライフハックブレインストーミング、アイデア創造術――なんと呼んでもよいけれど、そういったもの――に凝りだすと、今度は書き出せた思考の総量が多すぎて系統だったものに仕切れなくなる。*2うまく捌けなければ、断片的な思考の大半が「語句」どまりのものになりがちだ。アナログだろうとデジタルだろうと、断片的なメモは、いくら書き溜めても、かなり積極的に再加工していかなければ、「文」にたどり着かない。ましてや「文章」には。*3

▼ii. 小ノートで行うリスト型の処理(KOKUYO野帳を事例に)

 そこで、どういうことをするようになったか。
 まず、大小2つのノートを用意する。自分は小ノートに野帳を、大ノートにフールス紙ノートを選んだ。

 そしてまず、野帳を開く。日付を書く。今日の日付が2018年04月26日であれば、「2018/04/26」と書きつける。厳密にこの書式で書く必要は特にない。べつにその日の気分で「20180426」でもいいし、「2018.04.26」でもいい。とにかく8桁が揃っていればそれでいい。曜日も、気分が乗れば「(木)」とか「Thu」とか書いてもいい。けれどとりあえず日付があればいい。曜日なら、日付さえ確認できるなら、後でいくらでも検索し直せる。
 次に、左側に番号を書く。「1.」とする。その右に、「起きた 0640」などと書く。何か特別なテーマがない限り、「今日起床した後に起こった出来事」を、思い出した順に書き出していくことにする。
 注意してほしいのは、朝のはじめから厳密な順序で出来事を並べていく必要はないということだ。たとえば今これを書いている時は、すでに時刻が正午を回っている。それまでの間、私は家事をしたり、食事を摂ったり、PCで事務作業をしたりしていた。並行して、そうした細々とした作業を通じて、諸々の想念が脳内に溜まっている。けれど、それら一つ一つが、「文」、つまりセンテンスに仕上げるほど価値があるものばかりではない。
 だから、まず「リスト型」程度で収まるものだと仮定して(見切って?)、書き連ねていく。こんな風に:

20180426(木)
1. おきた 歯ぐきがイタイ? (0640)*4
2. ラジオ英会話 L 19 Great! *5
3. 実ビジ英 2-5 とちゅうから*6
4. メール→MM/DD *7
5. 雪平鍋でパスタ実験 *8
6.コーヒードリッパー割れたァァァ→買う?←×*9
7. 封神演義外伝1話 *10
8. 漂白うまくいく *11
9. ブログ細分化*12
10. GoogleKeep *13
11. 記事(リスト/センテンス)*14
12. 洗濯:2 *15
13. プルアップSTEP3どうする *16
14. メソドロジカルノー*17

 書き連ねるにあたってもっとも重要なポイントは、「前後関係は気にする必要がない」ということだ。とにかく、頭上にpop-upしたできごとを先に書く。左に書いているノンブルは、出来事の順番を意味しているのでなく、単なる書き出し順のIDのようなものである。1200時ごろにあった出来事の直後に、0930時ごろにやっていた出来事を書いても、全然問題ないわけだ。
 書きつけるペンはなんでもいいけれど、野帳で書く際には、文字が滲みづらく潰れづらい、三菱鉛筆のUniball-signo RT1 0.38mmを使用している。(色は紺か黒)

▼ii補.野帳は必要なだけ、すべての場所に置く

 上述したリスト型のための野帳は、1冊だけでなくとも構わない。自分の場合、「自宅用」「カバンA用」「カバンB用」などで使い分けている。さらに筆記用具も、野帳の縁に引っ掛けておくなどして書き出せるようにしている。
 はじめは、事務作業の日誌なのだから、一冊に縮約しておきたいと思っていたのだが、数年間ずっと上手く行かなかった。最終的には、「それぞれの場所で書きつけることが、作文する“踏み台”になってほしいだけなのだから、リスト型でメモして、それが散逸しないのであれば、分冊しても問題はない」という割り切りでやっていくことにした。重要な情報の集約は、リスト型では行わず、センテンス型の方でやっていけばいいという決断をした。

▼iii.今後「文」にしたい/してもいいかなと思えるものだけ、蛍光ペンでマーキングする

 ここまでやった後に、今度は蛍光ペンを用意する。蛍光ペンは、三菱鉛筆のプロパス・ウインドウか、ステッドラーのテキストサーファーゲルがよい。プロパス・ウインドウは従来型の蛍光ペンと違ってマーカーする箇所が透過できる優れた機構を持っている。ステッドラーのテキストサーファーは、そこに印字されたインクや塗料がどんなものであっても、滲みや色移りなしで上塗りできる性能を備えている。(例えば万年筆で書いた水性インクであっても、なんの問題もなく強調マーキングすることができる。)

 強調表示するのは、「あとで“文”として書くほどコミットしてもいいかな」とか、「引き続き考えてもいいかな」、などと自分自身で思えたものものに限る。たとえば、上述した例でいえば、

  • 5.「雪平鍋…」
  • 13.「プルアップ…」
  • 14.「メソドロジカルノート」

の3つだけがマーカー表示に値する。あとは、その時の、ワンオフの事務作業ということで残されるに留まる。こうして、後日野帳を眺めた時に、その日「文」にしていくに値すると判断したものが何だったかを振り返ることができる(し、その記述だけで「文」未満になっているなら、別途の作業を上積みしていく必要があることが判断できる)。

▼iv.「文」の輪郭が見えたら、大ノートに書き出す(フールス紙ノートを事例に)

 野帳のメモがたまり、マーキングされた箇所も増えてきたら、そのうち直近で考えておきたいものをpick upして、作文にする。作文は、「PはQである」「PはXした」などの、主述が1つ程度あるものでも構わない。とにかく、主述が1つ以上ある文があればよい。
 たとえば、直近で作った「センテンス型」の文章は、こんな感じである:

2018.04.25:読書家として面白がるところと、知識生産者が面白がるところは、べつ。
(以下注釈割愛)*18

 こういう記述が結局なんになっていくかは、誰にもわからないし、書いたばかりの自分だってわからない。それでもとりあえず「考えを、語句レベルに留めおかず、単文・複文レベルに育てて書きつける」ところまで到達することが、その後「段落」や「文章」を練り上げていく足場を固めていく上でも大事なものとなる。
 そもそも、単独で主張したいものの強度を上げるために、いくつも一文や段落を連ねていって、それが必要十分な「文章」として最終的に呈示されるわけだ。それなのに、最初に請け負える一文をそもそも書き手が持っていなければ、文章を書き足していく意味が薄い。あやふやでも、言い過ぎでも、それ単独では邪悪な思考であってもいいから、とにかく、主述のはっきりした「一文」(one sentence)として刻みつける。その文を太らせるか、それで終わらせるかは、書いた後に読み返す自分に考えさせればよい。

 なお、大ノートに書き付ける筆記用具は、好みに合っていればなんでもよい。自分の場合、単なる趣味と腱鞘炎防止で万年筆を使っているが*19、手許にすぐ準備できない時は、三菱鉛筆のJetstream 黒 0.7mm で書くことが多い。Jetstreamの三色ボールペンでもよいのだが、グリップがやや太くて性に合わないのと、インク交換の手間が多く感じられるので、自分は単色を推奨している。

▼その後の作業

 各自が取り組んでいる最終的な成果物によって、いろんな形があると思う。そして、自分は自分の成果物にむけた面倒しか見られないため、ここで多彩なケースに応じた記述を代弁することはできない。それでも、ぼんやりした単語やフレーズを、曲がりなりにも、ひとつのまとまった主述として固めることは、その後の成果物にむけた一つのマイルストーンにはなりうる。
 けれど、それよりも想像してほしいのは、次のようなことだ――「主語と述語とを組み合わせて、fixさせること」は、自分たちがあたりまえにやっているし、実際いつでも簡単にやれそうなことでありながら、いざ自分のためになりそうな、特別な思弁のために組み上げようとし始めると、途端になかなかうまくいかなくなりがちだ、ということ。
 そうした事態を、「語句が文になってくれない」という捉え方で再構成してみることを、この記事では推奨してみた。
 そのあたりを見据えて、自分の周辺にフワフワと浮遊している*20いろんな「語句」を、個々の「文」に仕上げていく作業をやり直していけば、なかなか捗らない書斎仕事に、一本筋が通り始めるのではないか。そういう法則、法則といって強すぎるのであれば、傾向性が、人間の言語野の上で働いているのではないか、と私は推量している。

*1:後者の箇条書きのことを、「リスト型」ではなく「語句型」と言ってもよかった。だが、リスト型では、主述が揃っている文章も箇条書きで書くことができる。それを一度、「文」として請け負う形に変換するプロセスを経るかどうかを焦点化したかった。そのため、センテンス型の前段階として、「リスト型」という名称にした。

*2:例外として、マインドマップ式の語句の体系化作業は、「文」にしないまま「語句」だけで思考の秩序を整理する方法として推薦できる。むしろ、マインドマップを実施するなら、1要素を「文」にしてはいけない、「句」や「節」でもなく「(単)語」に限定した方がいい。しかし、それはそれとして、マインドマップで秩序付けられた語句の群も、最終的には「文」に再加工する際には、若干の苦労を要する。単に漠然と箇条書きした時よりはずっと整然と、確信を伴って進んでゆけるとはいえ。

*3:ここでは、外語の文法等でよく言われる語<句<節≦文<段落<章<文章 というまとまりを考えている。英語で書くと、word<phrase<klause≦sentence<paragraph<chapter<text (※複数形省略)である。今回言っているのは、「語句」(words & phrases)から、節文(sentences)に進むのは、自然ななりゆきだけでは無理なのではないか、という話をしようとしている。

*4:起床時間と、起きた時の状態を書いている

*5:内容が素晴らしかったことを端的に書き付けている。『ラジオ英会話 2018年度』の素晴らしさについては、この記事の3日前に書いた。

*6:09時過ぎに『実践ビジネス英語 2018年度』を聴いていたことを表す。『実践ビジネス英語』の難易度や演習についても、先日書いた。

*7:仕事の事務処理をひとつ仕上げたことを思い出している。起きた出来事、その後に生じた次の仕事を A→B で書いた。MM/DDは、たとえば「05月11日」のように、任意の日付が入る。

*8:アルミ鍋の購入を考える際、雪平鍋でどこまで代用が効くかの実験を早朝に行った。実はそのうち家庭料理の取り回しについてのエントリを書こうと思っていて、その予備的な作業を幾つかこなしている。ただ、まだ書けるほどになっていないため、こうして一行で書きつけて、仕上げたことだけ書き込んでおく。

*9:単に家事の最中に悲しかった出来事を書き付けている。ついでに、次に買い物に出かけた際に買うかどうかの判断、それを否定する「×」印を書く。実際、割れてもまだ使えるし、欠けた箇所が怪我のもとになりそうな危険もないことが確認できた。見てくれは悪いけれど、そのうちでいいだろう、と判断している。なお、「ァァァァ」は、そのときの情緒を追加で表しているだけで、本来は不要。

*10:集英社のマンガアプリ『ジャンプ+』で、藤崎竜封神演義』の十数年ぶりの完全新作がリリースされた。マンガ読みとしてはそれなりに大きな出来事で、自分自身も驚いたが、自分がその出来事に対して何かキッチリ書きたくなるほどのコミットメントは生じていない。毎日新聞でも報道されているくらいだし。しかしそれが起きた日だけはそこそこ意義深いので、これも一行で済ませる。

*11:04月中旬に、寝床で勉強していたら、蛍光ペンを持ったまま寝落ちしてしまい、パジャマとシーツにピンク蛍光色の染みがついてしまった。一度応急処置として水拭き・水洗いは済ませていたものの、汚れがうまく落ちないままなんとなく諦めており、本格的な漂白処理も行っていなかった。これを早朝に遅まきながら実施。洗い桶の中に粉タイプの酸素系漂白剤とお湯を入れ、30分以上放置した。結果、まだうっすら跡が見えるものの、単に水洗いしたときよりは見違えるほど染みが取れた。……というような細かい家事上の難題をやっつけてスッキリしたのだった。これも一行で済ませる

*12:料理エントリに関して、とある料理本4冊を並行して紹介しようという野心があり、数日前に書きつけてみたものの、一冊一冊を適切に紹介するのがおもったより難しいことに思い至り、「一冊ずつレビューできてからでいいんじゃない」と思い直し意思決定している一行。実際、4冊のうち『料理の四面体』だけをpick upしなおし、その紹介記事を書き直しているところ。

*13:最近使っているメモアプリにGoogle Keepというものがあり、それの保守を行ったことを一行で表している。買い物メモや直近でやっておくべき調査作業などを書き加えるのも一個の仕事なので、こうして書き加える。Google Keepは、付箋風にリスト管理ができるので、今こうして書いている「リスト型」の思考に馴染んでいる。

*14:今この記事を下書きしていること

*15:単に洗濯を2回したことを表している

*16:『プリズナートレーニング』における、懸垂系の運動について思弁したもの。

*17:今やっている作業に関連する作業のメモ。

*18:これは、以前、指導してもらった人に言われたとある台詞の解釈を刷新するために書いたもの。割愛した注釈には、自分なりのメモが7行程度、加わっている。

*19:専門家によれば、万年筆の通販サイトでの購入は原則としておすすめできないと言われている。保証書がついていないことが多く、また場合によっては中古品を掴まされるリスクもあるという。もし万年筆を調達したくなった場合は、全国の丸善伊東屋東急ハンズ等、万年筆を扱う専門の文具店で購入することを強く推奨する。その上で、使っている万年筆のデータを記載する:

ラミー LAMY 2000 万年筆 L01 M(中字) [並行輸入品]

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*20:このあたりは、英語の “have” がもつイメージに近い。have している思考は、必ずしも自分のものとして操作しきれるものだけでなく、なんとなく周辺に漂っているだけのものも多い、というイメージだ。それを確実にガッチリとgetするためには、一度自分で「文」という濾過器を通して、何が具体的に浮遊していたのかを固めていく必要がある。