NHKラジオ第二『ラジオ英会話 2018年度』がすごい

 このブログの著者は、英語教師の大西泰斗&ポール・クリス・マクベイコンビのファンです。
 二人は『ハートで感じる英文法』や『一億人の英文法』などで定評を得た著者ですが、特に自分はNHKテレビの教育番組シリーズ『しごとの基礎英語』で、英語の素養ほぼゼロだった篠山輝信さんを英語のデキる人に育て上げていく大西先生の真面目で理論的な態度に、強い影響を受けました。(アキが卒業してからの、おもてなし英語にコンセプトが変わってからは見なくなってしまいましたが)

一億人の英文法 ――すべての日本人に贈る「話すため」の英文法(東進ブックス)

一億人の英文法 ――すべての日本人に贈る「話すため」の英文法(東進ブックス)

 その大西先生が、もともとのコンビであるマクベイ氏と共に、2018年04月より一年間、講座を受け持つことになりました。遠山顕さんが長らくやってきた枠の後継となります。*1

www.nhk-book.co.jp

また、04月上旬の放送に間に合わなかった方へ:音源はiTunesなどで遡って購入することも可能です。*2

 放送枠は平日月-金、0645時,1225時,2145時からの15分間。日に3回ずつ放送されます。週末の日曜には1630時から1745時まで連続5回ぶんの再放送もあります。また、NHKラジオ英語講座のアクセシビリティが今年度から格段に改善されたことは、先日『実践ビジネス英語』を紹介した時に書きました。この講座も同様の恩恵を得ており、一週間前の講座をストリーミング再生で何度でも聴くことができます。Webブラウザでもアプリでも、どちらでもお好きな方をどうぞ。

 さて、04/23時点でLesson 16まで進んでいるこの『ラジオ英会話』ですが、本当に、ちょっとでも英語で挫折感を得たことがあるひと全員に聴いてほしい出来です。過去の大西&マクベイ仕事の中でも、最も入りやすく、また最も丁寧なバージョン、『一億人の英文法』以降に行われたさまざまな仕事の総決算といえるような仕事になってる気がしてなりません。

 自分は、英語について学び直したい、苦手意識がある、という友人に、その友人ごとに応じた勉強法や教材を提案することがあります。今まではそれぞれの悩みに応じた、さまざまなコンセプトの教材をべつべつに提案してきました。でも、今年度は違う。みんな2018年度の『ラジオ英会話』を聞けばいい。これを通った後に、それぞれ必要なことに進めばいい。

 自分だったら、『DIALOGUE1800』*3を周回したり、高校三年次にやり残した悔いのある『DUO 3.0』*4をおさらいしたり、『実践ビジネス英語』の2018年度版を並行して聴いたり、普通に英語論文に取り組んだりと、色々な手があります。それでも、英文出力のメンテナンスとして、『ラジオ英会話 2018年度』はものすごい好影響を与えてくれてます。難易度が高い低いじゃない、英語の骨格、基底部分と言えるところを、何度でも辿り直させてくれる。こんな教材が毎日聴ける今の中高生が本当に羨ましい。

 ただ、大西メソッド*5の考え方は、これまでの伝統的英文法のカリキュラムと具合がちょっと違います(同時に、その従来の英文法解説と異なる仕組みが、大西&マクベイ式のアプローチのいいところでもあります)。『一億人の英文法』の時は総花的な書かれ方をしていたので気づけていなかった所も多いのですが、04月中だけでも「おやっ」と思ったところがあるので、何点かに着目してメモしておきます。

▼ i. 「文型」に関する語彙を、一通り書き換えている。

 たとえば「五文型」といえば、SV, SVC, SVO, SVOO, SVOC ですね。これらを大西先生も退けていませんが、言い方を変えている。

旧来の言い回し 略語 大西メソッド
第1文型 SV →【自動型】
第2文型(be動詞) SVC (S be C) →【説明型】
第2文型(一般動詞) S do C →【オーバーラッピング】
第3文型 SVO →【他動型】
第4文型 SVOO →【授与型】
第5文型 SVOC →【目的語説明型】

 このあたりは、多くの高校英文法書でも似たパースペクティヴで解説していることを術語として規定しているだけですので、まあわからなくもない。*6

▼ ii.「指定ルール」と「説明ルール」という説明が導入されている。

 これも『一億人の英文法』の時点では既に全面的に採用されていましたが、『ラジオ英会話』のテキスト各月号の冒頭でも必ずこの注釈が入っています。

名称 意味
指定ルール 前に置いた修飾語句は後ろを指定する。
説明ルール 後ろに置いた修飾語句は前を説明する。

 この2つは、私達が英文解釈の時に「前置詞句」をどう位置づけるか、とか、副詞が後ろにぶら下がってるときと前に挟まれているときとでどう読み方が変わってくるか、といった、各単元ごとに悩まされてきた問題を、「指定ルール!」「説明ルール!」の二パターンで処理していきましょうね、というマニフェストになっています。

▼ iii. 履修済のカリキュラムをほんの少しだけ超えた、やや複雑な構文が、英作文演習時に毎回登場する。

 今回の講座では、個々の細かい構文の解説については、ラジオ本編ではそこまで厳密に行いません。そうした方針もあってか、英作文演習の難易度が、カリキュラムそれ自体の解説よりも若干高度(というより、少しばかり抜き打ちテスト的な難しさ)になっています。手元の素材だけではそういう文は目指せないだろう、というような小技的な構文要素が、カリキュラムより先行する形で小出しに出てくるのです。これは高校英文法の復習にはちょうどよい歯ごたえなのですが、中学英文法の段階で色々抜けがある学習者にはちょっと不意打ち感があるかもしれません。
 具体的にどういった面が先出しになっているか、以下に幾つか列挙してみます:

  • SV (that) SV 【節を用いた複文の構成】*7
  • SV to ...【to不定詞】*8
  • it構文 *9
  • Doing..., SV | SV doing… 【現在分詞による句の構成、あるいは現在分詞による後置修飾】*10
  • {名詞,動詞,形容詞,副詞}などが文要素{S,V,O,C,M,等々}と整合するかについての解説*11

 細かい説明は注釈に押し込めましたが、前半の文型の解説にとどめている段階でも、文法導入の小技を利かせていることが伝わってきます。ただ、中学英文法の中盤でも出てくる、語/句/節/文の区分を全然覚えていないと、もしかすると厳しい側面もあるのではないか? という気もしています。「複文」「句」「節」の位置づけについては、本年度ラジオ英会話本編の中で、別途解説回を設けてほしいなと思っている次第です。
 それはそれとして、ある程度の習熟度に到達している人にとっては、「初験で Grammar in Action 三題を完璧に英作文する」というチャレンジは、ちょうどよく歯ごたえのある作業になると思います。瞬間英作文的にもなかなか難しい表現が含まれていますし、失敗した時にNHKテキスト解説を読むと、「ああ、こういう文法項目、あったね!」とハッとさせられる率が高いです。*12

▼ iv. 分詞のフィールの説明が先、時制/態/分詞構文の説明は省略

 Lesson11-15の週で特に顕著でしたが、大西メソッドでは、時制、態(能動態/受動態)/分詞構文 といった、既存の英文法カリキュラムに沿った議論を行いません。代わりに、現在分詞 doing の気分、過去分詞 done の気分を説明します。
 聴いていたとき、「いや、たしかに『一億人の英文法』ではそういう説明していたけれども、文型の説明からみっちりやっていくこの『ラジオ英会話』でも、その荒業で突っ切るの!?」と、私は少しショックを受けました。
 ところが、実際にはそこまで破壊的な行いでもないのかもしれない、と思えてきました。たとえば I am keeping …… は、be doing という、僕らが「時制の表現(現在進行形!)」としてパッケージングされてきた表現をそのまま覚えてきましたが、「説明型(S be C)で、躍動感ある -ing形!」という発想であれば、I = keeping ... という気分に則って、自然に現在進行形の表現になる。*13
 I was injured… も同様。be done で「受動態!」と覚えておくのも間違いではないけれども、「I = injured な状態!」と考えても意味は通る。そしてこれらは、「準動詞としての現在分詞・過去分詞が共に形容詞的な意味合いを持つ」、という規則とも整合する。*14
 こんな風に、時制・態で“とりあえず、覚えろ”とされたものを後で準動詞で覚え直す、という手間を、大西メソッドでは省略しても構わないわけです。最初から現在分詞、過去分詞のエッセンスの部分を見据えて語り直している。
 従来の英文法単元の切り方とはかなり違うため、これまでに頑張って学校英文法を学んできたひとほど、「えっ、今どこ由来のなんの話してるの!?」という違和感は一定確率で出てきますが、それも大西&マクベイなりの文責を背負って、覚悟の上でやっているだろうということが、なんとなくわかってきました。

余談的感想:伊藤和夫の前期/後期になぞらえて

 おそらく、今回大西&マクベイが試みていることは、伊藤和夫にとっての『英文解釈教室』と『ビジュアル英文解釈』の関係みたいなのに近いのかもしれません*15。『一億人の英文法』で体系を示した後、『ラジオ英会話』で英文法の「厳密に排列された最新インストールパッケージ」を再構築しようと試みている。これは、伊藤和夫が『ビジュアル英文解釈』を、「やってることは英文解釈教室と同じだけれど、順を追えば英文法の体系が自然に身につくように工夫した」(大意)と位置づけたのにかなり近いように見えます。
 一年間の終わり頃に、どのような「最適な順路」が構築されているのか、一学習者として今から楽しみでなりません。

*1:遠山顕さんは、『ラジオ英会話』ではないものの、本人の名を関した別の看板番組ができ、そこで昨年度までとほぼ同じ構成の英会話番組を持っています。昨年度までのラジオ英会話が好きだった方はそちらをチェックしてみてください。NHK ラジオ 遠山顕の英会話楽習 2018年5月号 | NHK出版

*2:すでに05月ぶんのデータも、ページは準備されていたので貼っておきます。この記事を05月以降に発見した方はこちらもお使いください。

*3:

英単語・熟語ダイアローグ 1800 三訂版

英単語・熟語ダイアローグ 1800 三訂版

*4:

DUO 3.0

DUO 3.0

*5:成り立ちや貢献度を考えると「大西マクベイメソッド」と呼ぶべきかもしれませんが、便宜的に今はひとまずこう呼んでます。

*6:ただし、be動詞の扱いが軽いことによって、第2文型の一般動詞の扱いが、これまでの英文法解説ではあまり見られなかったような、斬新な説明になっています。Lesson 8-9の「オーバーラッピング」解説はネ申回だった。

*7:例: Lesson 1 より "I hope they don't mind." ここではテキスト解説に「節」(文中で使われる「小さな文」のこと)と、簡潔な定義が示されていますが、そもそも節や句といった要素がなんであったかはLesson 1では細かく議論しません。

*8:Lesson 7より "My ambition is to become an inspiring teacher." to 不定詞の存在はある程度は聴いたことがあるだろう、という前提でこの表現を紹介しています。ここでは「to のキブンは ➡ である」、という恒例の説明と組み合わせて、あくまで説明型として理解してくださいねという文脈の中で説明しています。to不定詞のきちんとした説明は2018年05月号の中で改めて展開される予定のようです。

*9:これは出てくる度に大西先生から丁寧な解説がありますが、メイントピックとして取り上げられてはいません。その他、メジャーな構文はすべて文型の説明が終わった後になるようです。

*10:例: Lesson 1 より "Look at those kids dancing over there." ここでは「説明ルール」の一種として紹介するにとどめ、現在分詞による修飾の話はほぼ行っていません。「説明ルール」がわかっていれば、おのずと現在分詞のはたらきも十分把握できる、という立場に立っているからでしょう。

*11:これは、従来の英文法の説明を採用するとどうしても避けられなくなるものです。今回の『ラジオ英会話』では、そもそもSVOCMといった略語を原則として使わなくても済むように注意が払われています。そのため、品詞から理解する議論は、最低限に押さえられています。第一週で自動詞/他動詞の区別を論じていることで動詞v. の説明は一度終わらせていますし、また説明型第二回の時に{形容詞,名詞,前置詞句,動詞 -ing, 過去分詞形}なんでも説明になりますよ、と書いています(Lesson 7 参照)。こうすれば、補語C(Complement)の定義を導入せずとも済むわけです。こういう、「従来型の細かい術語を導入しないために、先取りしてメチャメチャ洗練された説明枠組みをこしらえておく」というムーヴが、大西&マクベイの今回のカリキュラムには多々見受けられるのです。タツジン!

*12:個人的に好きなGiA課題は、Lesson 9 "We remained confident despite the defeat."; Lesson 13 "I know a guy who is a wizard at fixing computers." などです。従来型英文法の言い回しでいうと、S remain C, despite X, 関係代名詞who名詞的用法, wizard at doing が使われているわけですが、そうした従来型の言い回しを意識せずに取り組めるための色んな伏線が、この課題にたどり着くまでに色々張り巡らされているのが素晴らしい。

*13:もうすこし解説します。I am keeping が「説明型」である、という時、SVCのVに当たる部分は、amになりますね。ところが、単に「S(主部)を見つけろ、V(述部/述語動詞)を見つけろ」という指示に従うだけなら、Vの部分が"am keeping" でもよい、ということになりかねない。英文解釈をしていく上でならbe doing 部分が述語動詞だ、と言っても差し支えはないんです。ただ、おそらく今回のラジオ英会話では、そういった構文解析風の「V」のとり方を禁欲させる方向で調整しているように思います。だから、「進行形は be doing と教わってきたでしょうが、感じ方を整えてください。これはあくまで説明型として考えましょう。そして keeping は、説明型(SVC)の説明部分、その場所にたまたま現在分詞 -ingが置かれているんです」と言っているのではないでしょうか。……勝手な推理なので、間違っていたらすみません。

*14:「整合するから、何なの?」というツッコミがありそうですが、これによって、実際に speaking/writing する時の気分が大きく変わりそうなんですよね。伝統的な学校英語であれば、「わたし→be doing→その他もろもろ」という流れで組み立てるところを、大西メソッドであれば「わたし、いまこんな状態!→その他もろもろ」という気分に沿って語彙を選んでくることができる。その時に、時制や態を、単に覚えたものでなく(過去完了形だからhad done!)、時間感覚や能動受動の気分に沿って自然と選ぶことができる。そのへんを後々重視したくて、今こうした布石を指導の中に織り込んでいるのかなー、などと思いながら聴いています。

*15:

英文解釈教室〈新装版〉

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