2013年夏に頒布された『マンガルカ vol.2』に寄稿した2つの800字書評(『大奥』『ハックス!』)のうち、今井哲也さんの作品『ハックス!』に関するものを、ここに再掲する。*1
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『ぼくらのよあけ』で一躍「団地マンガのひと」の仲間入りを果たした(?)今井哲也の、商業での初単行本化作品である。
本筋としては「高校一年生の女子が、新入生歓迎会で観たアニメーション研究部の動画に感動して、最初の高校一年間自主アニメ制作に取り組む」、ただそれだけの話ではある。
ところが、その一年間のあいだに起こる出来事の要素が、その一年間にとどまらない。
部室には、何代前の誰がいつ置き忘れたかも定かでないオブジェクトが転がっていて、それが誰かのアイコンになったり、あるいは当面の問題解決に使われたりする。そもそも主人公の阿佐美みよしが新入生歓迎会で観たハイ・クオリティ・アニメそれ自体が、「十年以上前のアニ研の誰かが、どうやってつくったのか分からない遺物」として眼前に立ち現れる。いわばこの漫画は、十年以上前のアニ研部員が遺したさまざまな痕跡を「考古学スル」ことによって進行していくのである。アニ研の部室は、始めから終わりまで、解明されるべきタテ糸として物語を律する。
また「考古学スル」対象となるアニ研は、人同士を取り結ぶヨコ糸としても機能する。『ハックス!』でアニメを作るのは、主人公含む部員だけではない。生徒会や演劇部など、ゆるい人間関係の繋がりが、思いがけないかたちでアニ研の創作活動に関与する。個々の人物がアニメに理解があろうとなかろうと、またアニメへの情熱の有無なども関係なしに、その人物の動きはなんらかの形で、主人公たちのアニメ創作活動に間接的な影響を与えうる存在として描かれる。
その意味でこの漫画は、通常の部活ものよりも若干引き気味の視座から青春のありようを描いている。『ハックス』は、課外活動にフォーカスしつつ、高校の生態系を捉え、描写しようとした作品として読むべきなのかもしれない。*2
(全4巻)
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