MWCD11e (Merriam-Webster Collegiate Dictionary, The Eleventh Edition, 2003) の略語英日対照表

▼これは何?

中型で単巻の米語辞典として定評のあるMWCD 11e (Merriam-Webster Collegiate Dictionary The Eleventh Edition, 2003) の38a-39aページに存在する「略語表」(”Abbreviations in This Work")を、{略語,正式名称(英語),日本語訳}の3列にまとめたものです。*1

MWCD 11e とは、これです。*2

▼なんで作ったの?

  • MWCD に対応する訳語表が欲しかったから。
  • 自分がMWCDを参照したい理由の大半が「語源を調べる」ことにあり、かつ語源欄の多くはこの略語表と対応しているため(略語表がある程度頭に入っていないと、調べる意味がなくなる)。
  • すでにあるだろうと思って高をくくって検索したら、(少なくとも MWCD に対応するものとしては)みつからなかったから。*3

あたりが理由になります。

▼訳し方はどうなってるのこれ?

  • 亀甲括弧〔 〕で、分類を表しています。(〔文法〕〔品詞〕〔単位〕など)
  • 一つの略語に複数の対応する正式名称がある場合、「A,B,C,...」と、コンマで区切っています。
  • 一つの正式名称に対して異なる訳語が考えうる場合、「a/b/c/...」と、スラッシュで区切っています。
  • 「〜〜者」「〜〜学者」と直訳できるものは概ね「〜〜」「〜〜学」に留めています。*4
  • 指示-対象の関係がいまいち特定できないものについては、注釈にとどめているところもあります(MWCD を使い込んでみるうちにわかったら追加します。)
  • 古文法に属する用語や英語史の基本的知識に関しては、橋本功『英語史入門』(2005,慶應義塾大学出版会)を傍証として大いに参考にしました。複雑な英語史を{歴史,文字&書体,音声,方言&標準語化,語形,統語,聖書学}などの各テーマに分けて、詳しく図解し解説してくれています。MWCDが所与の前提としている英語(アメリカ英語)の地理的・歴史的条件を捉える上で、非常におすすめです。*5

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▼更新履歴

日付 更新内容
2015.11.20 注釈で留保を入れつつ、全項目を訳出。
2015.11.19 記事を作成。

▼関連記事

このへんですでに書いたことをある程度前提にしています。
辞書について:日本語,英英,英和を中心に - Trick or Think?

▼本表(MWCD 11e 略語・英日対照表)

*1:本記事は、誤り等が見つかり次第場合、断りなく修正する場合があります。予めご了承ください。ただし、大きな修正があった場合は、後述する「更新履歴」にメモしていくつもりです。

*2:日本では『広辞苑』とか『大辞林』あたりの用いられ方に近い辞書です。ただし、数あるWebsterの中で"Merriam-" と"Collegiate" の両方がついた辞書だけが WMCDです。よく似た辞書名として、Webster New World College Dictionary(最新は第5版) や Webster’s The Third New International Dictionary (通称 Web3 )などがありますが、出自-出版社(現在の権利保持者)-編纂方針がそれぞれ異なります。ご注意ください。このあたりの米語辞書の位置付けはこちらにまとめてあります。辞書について:日本語,英英,英和を中心に - Trick or Think?

*3:MWCD に対応していないか、或いは英語“一般”の略語表として網羅的すぎ、参考にならなかった。その後、Dictionary.com に似た一覧を見つけましたが、これは MWCD よりも略語の数が2倍以上多いようです(MWCD が 300 語強であるのに大して、Dictionary.com の略語数は 750 語強あります)。http://dictionary.reference.com/writing/styleguide/abbreviations.html なお、Dictionary.com は、Random House Webster's Unabridged Dictionary, The Second Edition, 2005 を底本としたデータベースのようです。

*4:通常、日本の英和辞典では《法律》とか《経済》といった記号で、それが専門用語であることを区切る傾向がみられます。しかし、《法律学者》《経済学者》といった書き方はあまり見かけません。ただし、MWCD は、人物の簡潔な伝記もかなり載っているため、そうした文脈で法の実務家や経済学者が言及される場合は、その文脈に合わせて「法律家(弁護士)」「経済学者」と読むことになると思われます。

*5:特に自分は、古文法の[格]の位置づけについては、この本で学びました。

続きを読む

辞書について:日本語,英英,英和を中心に

(最終更新:2015.11.16)

※本記事は投稿した日に情報が完備された事を必ずしも保証しない、未完成の記事です。
特に宣言なく更新されることがあります。

▼更新履歴

日付 更新内容
2017.01.17 『精選版 日本国語大辞典iOS版が物書堂からリリースされた点を追記。
2015.11.18 (1) 米語辞典事情や英英辞典比較についての注釈を多数追加。(2) 古い版のうち、著作権切れの書籍について幾つかURLなど注釈を追加。
2015.11.16 日本語アクセント,日本語-中辞典,英語発音の項目を更新。(2) 英英-中辞典 に4項目ほど記事を拡充。
2015.11.15 (1) 英文法書のレビュー本文を作成。(2) 日英各種辞書についての項目を作成。
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日本語で読める英文法書について:文法書は“注釈”を読もう!

【免責事項】ここではすでに一定度以上の定評があり、しかも学習者向けに安価であるところのロイヤル*1、実践ロイヤル*2などは扱わない。また、大学英語文法の代表として知られるQuirk et al.*3やCambridge*4なども、2015年現在、英語原著の現物を点検できていないため、扱わない。さらに、2010s現在の英語学全体の潮流について具体的な survey をしたわけではないため、それについても言及する予定はない。

ここでは以下の3冊を扱う:『一億人の英文法』(2011)、『英文法解説』(3e, 1991)、『現代英文法講義』(以下、3冊それぞれを時に『一億人』『解説』『講義』と略す)。

おすすめの読み方について書く前に、これらの本の特性をざっくり書いておく:

『一億人の英文法』
(1) 認知言語学、特に語のイメージに関する小辞典*5を、「学習英文法」の世界に持ち込みつつ、1990sまでの伝統的英文法書の体裁を整えることに成功している。(2) 英語において大事なのはなによりも「語順」であるということを、“English Speaking に焦点を当てる”形で強く主張しており、その観念を読者に徹底してもらうことを目標に置いている点。*620世紀後半から初頭にかけて、大学受験英語関連の名著者たちは「SV」構造にこだわり抜くことで英文理解を提供した文脈があるが*7、English Speakingに応用が利く形で学習英文法の遺産を積極的に再構成したという点で『一億人』のアプローチは新しい。(3) 通読してもらうことを目的に編纂されたぶん、索引がついていない*8
『英文法解説』第3版
第1版は1953年に執筆された、歴史の長い英文法書。1980年代に英米圏でも英文法論に進展があったことに著者が一部応答する形で第3版が編まれた痕跡がある。いわゆる学習英文法書らしい英文法の編纂スタイルを保っているが、内容は手が行き届いており、索引も使いやすい。また英語史的な勘所も、この一冊でかなり補える部分がある。
『現代英文法講義』
学習英文法を目指して書かれたものというよりは、海外の英語学論文の動向を意識したうえで、ある種の“survey”や“review”の作業を一冊に纏めたものとして見たほうがよい書籍。言語学のうち、統語解析について使う基本術語である「NP」や、一文内の言語構造の樹形図が遠慮無く挿入される。したがって、英語学習者や英語実務家が“学習文法”の術語しか知らずに、良い評判だけを聴いてこの書籍を開くと、大いに首を傾げることになる。そのため、生成言語学を含む言語学の概論書・解説書など*9を手許に置くか、或いはそうした文脈が背景知識として要求されていることを理解したうえで紐解くと、収穫が大きいということが言える。

このように三書の特徴を整理することができる。しかしながら、三書それぞれが“本文”で書いていることは、大同小異はあれど、おおむね「同じ」であるといって良いと思われる。考察対象となっている英文法それ自体がそこまで論者ごとに形態が違っているわけがないのだから、理論としての文法の大半は静的である。

ではどこで違いが出るのかといえば、注釈部分なのである。ある程度英文法について見通しを得られている学習者は、それぞれの本を、以下の読み方で読み進めてみると、(それぞれの“分厚さ”を乗り越えて)効率的に書籍ごとの利益を得ることができるだろう。

『一億人の英文法』の読み方
コラム欄を読む。特に以下の順で読むとよい:(1) {ADVANCED, ULTRA ADVANCED}*10, (2){TYPICAL MISTAKES}, (3){HEART, CONVERSATION} *11 , (4){LIGHT, ELECTRON, POSITION}*12 , (5){VOCABULARY}*13 。また、{動詞, 副詞, 前置詞}のそれぞれについてイメージ小辞典が付いているため、それぞれの領域で疑問に思うことがあれば、それも項目ごとに読むとよい。
『英文法解説』の読み方
本文のうち、「解説」と書かれている部分を読む。著者(江川泰一郎)独自の文法論的見解が収められているのは、すべて「解説」欄に入っている。
『現代英文法講義』
"NB” と書かれている欄を読む。NBはラテン語で"nota bene"(=注意せよ!)の意味に当たる。

この3冊を、コラム欄において比較することで、伝統的統語論/英語史・米語史/認知言語学/実務英語のそれぞれの領域と適切な距離を保ちながら、英語それ自体の理解を深めていくことができるだろうと思われる。

その上で、英語/米語ネイティヴによって書かれた文法書に解決策を探る場合は、『英文法解説』『現代英文法講義』に文献書誌データとして収録された主要な議論にアクセスするとよいだろう(特に2006年に出た安藤の文法書は、当時までの英語文法論に関する位置づけの要約が多く、英語文法論関係の海外書籍・海外論文のリファレンスとしても応用することができる。)

個人的な評価を言うならば、『一億人の英文法』はSpeaking/Listeningその他口語英文法の原理原則を考える際に*14、『英文法解説』は、ノン・ネイティヴだと引っかかりを感じがちな英語構文を再吟味する際に(辞書のように)“引く”ものとして、*15『現代英文法講義』は、伝統的英語学の語彙と、それに対応する2000年代の議論の成果を再検討する際に参照する……という使い分けが、道具としての効用が高いと感じている。

*1:[asin:4010312785:detail]

*2:[asin:4010312998:detail]

*3:[asin:0582059712:detail][asin:0582517346:detail]

*4:

*5:大西&マクベイは、『一億人の英文法』を出版する以前に、『英単語イメージハンドブック』という本で、ある程度まで仕事を完成させている。したがって、この第一の貢献を『一億人』に求める際には、この本で間に合うかどうかを購入前に確認しておく方がよい。[asin:4862280250:detail]また、彼らが念頭に置いているのは、20世紀までの文法研究だけでなく、認知言語学の成果に拠るところもあるのだろう。認知言語学に関しては、たとえば以下のような概説書がある。[asin:4327378194:detail]

*6:この仕事は、2013年秋から大西泰斗が監修しているNHK語学講座『しごとの基礎英語』3シーズンぶん(Season 3 は2015年09月末より放映開始)が、大西の新しい取り組みとして注目できる。『しごとの基礎英語』シリーズを参照することで、2011年段階で『一億人の英文法』としてまとめられた内容を、更にビジネス英語という現場を想定してさらに彫琢されて行った過程を追跡することができる。

*7:[asin:4010323310:detail][asin:4327764043:detail][asin:4327764051:detail][asin:4327764124:detail]

*8:これは索引を付けなかった、と取るべきではない。実際に後にオンラインで索引PDFが配布されたけれども、索引としていかにも貧弱である。書籍本体がよいのになぜこういうことが起こるのか暫く考えてみたのだが、もしかするとこれは『一億人の英文法』のコラム欄や、上級者向け情報の分別をしっかりと系統立てて整理できていないことに起因しているのではないか。7種のコラム分類(HEART, LIGHT, ELECTRON, CONVERSATION, POSITION, VOCABULARY, TYPICAL MISTAKES)は、アイコンとして非常に識別がしづらいし、また時折挿入される{ADVANCED, ULTRA ADVANCED}といった情報がどこにあるかも見づらい。本当にINDEXを張るべきはこれらの情報が格納されている場所である。つまるところ、『一億人の英文法』のレイアウト・デザインを担っているチームは、『一億人』の基本的な系統性からはみ出る情報について視覚的に整理分別する努力を紙面に反映させられていないのだ。仮に今後『一億人の英文法』第2版改訂が成されることがあるなら、何よりもまずこの点での改良があるべきだと考える。

*9:

[asin:B00BB1ZRDM:detail]

*10:基本の解説よりもやや面倒な部分を切り分けて扱っているところ。

*11:ビジネス英語やネイティヴ英語論に属する部分で、これまでの学習英文法と比べると非-伝統的な内容が多い。

*12:伝統的な学習文法の争点を念頭において書かれたと思しき部分。なお、マニアックな部分とされる ELECTRON は p290,356,364,528,580, にしかない。はず。

*13:伝統的な学習文法書においては、「語法」に属する部分。これは軽く眼を通すくらいでもよい。

*14:口語英文法については、小林敏彦の書いた口語英文法に関する小冊子『口語英文法の実態』などが、学術的にもきわめて誠実に書かれており、現代英語口語を考える際に非常に秀逸である。しかし、小林の著作は、新書のように読み流すにはいささか几帳面にに書かれすぎている部分もあり、『一億人の英文法』のような「発話する英語」を重視した現代的潮流の波にさらに乗せてゆく形で普及していかないと真価を発揮しないだろう議論であるとも感じる。なにはともあれ、現代英米スラングなどを正確に理解しなければならない英語関係の実務家であれば、小林本は必読と言える。そうした人たちから、口語英文法論の面白さをアーリーアダプタとして広めて行って貰えればと思う。講談社現代新書あたりの編集者が、彼に口語英語についての企画書を送ってもよいと思うほどである。[asin:4894075326:detail][asin:487738376X:detail]

*15:この種の本として昨今非常に優れているのは、柏野健次『英語語法リファレンス』(2010, 三省堂)である。また、20世紀の戦後日本的英語構文演習本として50年以上版を重ねてきた『英語の構文150』の最新第7版にあたる New Second Edition (2011)では、柏野健次の語法論を参照して改訂した面が見られ、学習英語の業界でも最先端の議論を catch up していこうという健全な傾向が確認できる。[asin:4385151709:detail][asin:4828532307:detail]